札幌市「盤渓癒しの里山」における樹種判定作業について
1 はじめに
札幌市西区西野に所在する「札幌この実会」は、知的障がいがある方々を対象に生活介護支援などを行っている社会福祉法人です。同法人では、「盤渓癒しの里山」と名付けた森林を所有しており、遊歩道(フットパス)などの森林利用施設を利用者の教育訓練、森林作業体験施設として活用していると聞いています。
「盤渓癒しの里山」の中央部には一部草地のところがあり、同法人では、かつて障がい者の野外農場として羊などの飼育をしていたこともあるとのことでした。
「盤渓癒しの里山」で森林の手入れや遊歩道(フットパス)づくりなどを行っている森林ボランティアの奈良賢氏は、この森林の遊歩道(フットパス)沿いの主な樹木への樹名板の設置を企画し、その前提となる樹種判定のため、樹木に詳しく、かつ無償協力してくれる樹木医を探していました。その話を当社樹木医の木戸口和裕が伺い、当社のCSR活動の一環として木戸口が行うこととしたものです。
2 盤渓癒しの里山
盤渓癒しの里山は、「さっぽろばんけいスキー場」の西側に位置する6.3haの森林で、緩やかな起伏があり、尾根あり、沢ありの里山です。入口近くには、森林ボランティアの力作と見られる車いす対応の木道が設置されていました。
カラマツやトドマツが過去に植えられていましたが、広葉樹が侵入しています。近くではスキー場造成などの開発行為が行われてきた盤渓ですが、この森林は想像以上に自然度が高いと思いました。
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3 樹種判定作業
樹種判定作業は2回に分けて実施しました。1回目は、令和3年(2021年)7月21日の午前中3時間程度で、奈良賢氏、社会福祉法人札幌この実この実サポートステーション所長の佐藤悟氏他1名の計4名で、この森林の西側の遊歩道を歩いて判定しました。カラマツやトドマツが過去に植えられていましたが、シラカンバなどの広葉樹が侵入しています。
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2回目は、令和3年(2021年)8月19日の午前中3時間程度で、奈良賢氏、佐藤悟氏他2名の計5名で、この森林の東側の遊歩道を歩いて判定しました。この森林の一部は、ばんけいスキー場のゲレンデに隣接しています。トドマツが過去に植えられていましたが、ハリギリ(センノキ)、ハウチワカエデ、ミズナラなどの広葉樹が侵入しています。
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樹名板を設置する候補木を判定し、立会された方々が暫定的にカラーテープに樹種名をマジックで書き込み、巻き付けていました。今後、樹名板を作成して設置するとのことです。
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4 樹種判定した樹木等
この森林の入口にはコナラの大木が1本あり、ホオノキ、ヨーロッパトウヒが目立っています。木戸口にとっては、コナラは札幌市内の森林では初見でありました。そのほかは次のとおりで、よく見かけるものです。
イチイ、ハイイヌガヤ、キタコブシ、シナノキ、クリ、イタヤカエデ、ウダイカンバ、ケヤマハンノキ、オヒョウ、オニグルミ、イヌエンジュ、オオバボダイジュ、ヤチダモ、ニセアカシア、エゾニワトコなどが見られました。
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このうち、クリ、イヌエンジュは人が植えたもので、イチイも植えられた可能性が高いと思われました。
キタコブシが多くありました。白灰色の幹はこの木の白い花を連想させます。春が来たことをいち早く告げるこの木の存在は、早春に必ず訪問すべき森林だよと語っている気がしました。
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一方、同じく春を彩るオオヤマザクラ(エゾヤマザクラ)の木も数本ありましたが、森の中での激しい競争により劣勢木が目立ちました。森の中では、稚樹の段階から十分な太陽光を浴びることができるような一本桜のような育ち方をしなければ、美しい樹形の桜にはなりません。
桜の名所づくりといった人工林の現場でも、桜を密植しすぎて十分な成長ができず、てんぐ巣病などの病気が蔓延し、目指した桜の名所からほど遠い、単なる桜の集植地となってしまっている事例が道内では多く見受けられます。
ツル性では、ヤマブドウ、コクワ、イワガラミがありました。
樹名板の対象ではありませんが、草本では、ベニバナイチヤクソウ、ヒトリシズカ、トリアシショウマ、サラシナショウマ、キツリフネ、フッキソウ、ルイヨウショウマ、コウライテンナンショウ、クルマバソウ、アメリカオニアザミ、ウツボグサなどが見られました。
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フッキソウは、エゾシカは好んで食べないように見受けられます。下層植生の食害が多い森林ではこのフッキソウばかりが目立ちます。しかしながら、この森林では目立ちません。クマイザサなどの下層植生が多くあることから、エゾシカの食害は少ないものと考えます。
治山の森林調査をしていますと。エゾシカの食害圧の高い森林が北海道には多く存在していることに気が付きます。このような森林では下層植生が衰退しているので、森林の有する水土保全機能(水源涵養機能及び土砂崩壊防止機能)の低下が懸念されます。
気候変動により短時間強雨などの極端な気象現象が頻発する時代にあって、この「癒しの里山」の森林は、利用者の保健休養機能だけではなく、地域の災害の防止機能にも貢献しているということに改めて認識させられます。
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展望テラスから手稲山を望めることができますが、手前に高木となる樹種の木が植えられているので、将来的に伐採が必要となると思われました。低木の植栽や高木が侵入した場合は、早めの除伐が望ましいと思います。
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5 おわりに
奈良氏をはじめとする森林ボランティアの方々は遊歩道(フットパス)づくりや今回の樹名板づくりのほかに、シラカバの樹皮はぎやその樹皮を生かした製品づくり、シラカバの樹液採取、播き割りなど、森林のめぐみを享受しながら、楽しみながら活動しています。この「楽しみながら」ということが活動の継続の秘訣であると思いました。
そして、このような活動が森林の公益機能の発揮につながり、地域防災の向上にも貢献しているものと考えます。
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さて、今回の樹種判定作業では、同時に森林浴をすることができました。癒しのひとときをいただきました奈良様、佐藤様、関係者の皆様に感謝申し上げますとともに、今回の作業が森林利用者の療育活動や健康増進につながることを祈念します。