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北海道一の幹周の大山桜・浦河町「オバケ桜」樹勢回復・その2

2021年12月10日

1 はじめに
 令和3年(2021年)11月20日(土)に浦河町西舎の「優駿さくらロード」の奥にある日本中央競馬会日高育成牧場(以下「JRA」といいます。)の敷地内にある「オバケ桜」の樹勢回復措置を行いました。令和2年(2020年)11月18日(水)に引き続き、2回目となります。
 浦河町から、「優駿さくらロード」の桜の樹勢回復事業の業務委託を受けている樹木医金田正弘氏が地元調整を行い、観光資源としての桜のブラッシュアップを図る目的で、土壌改良を内容とする樹勢回復措置を行うことができました。

オバケ桜(2020.05.06)
オバケ桜(2020.05.06)

 参加者は、樹木医金田正弘氏、御子息の金田紘幸氏、金田樹木医の協力会社である㈱グリーンマインド代表取締役熊谷準司氏ほか5名、当社から樹木医木戸口和裕の計9名で行いました。
 前日、実施する予定でしたが、降雨により順延したものです。

2 オバケ桜の樹勢回復措置
 オバケ桜の周辺はミヤコザサが繁茂していましたが、JRAによる適期による刈り取りで、かなり衰退しており、この桜の根にとっては、徐々に快適な環境に変わりつつあります。
 今回も前回と同様に割竹縦穴式土壌改良法等を行いました。土壌改良用の充填材には、金田樹木医が準備した、①フジミンForest(フォレスト)、②フジミン500倍希釈液含侵稚内珪藻土、③DWファイバー、④木質チップ炭、⑤ピートモス、⑥日高産堆肥、⑦樽前火山灰、⑧鹿沼土、⑨赤玉土、⑩燻炭、⑪パーライト、を撹拌混合したものを用いています。
 このうち、①のフジミンForest(サンスイ・ナビコ㈱販売)は、10kg/袋の新製品で、1袋に対して液体であるフルボ酸の植物活性剤フジミン® 1Lをまるごと使用した固形化資材です。液体に比べて持続性に優れています。液体のフジミンの場合、これまで現場へ希釈水を運んでいましたが、この手間が省けます。
 しかしながら、今回は、従来からのフジミン500倍希釈液含侵稚内珪藻土も併用しています。理由は、液体のフジミンの即効性と稚内珪藻土(正しくは稚内珪藻頁岩粉砕物)の有する保水力、保肥力による土壌改良効果にも期待しているためです。
 DWファイバーは木質チップを特殊解繊処理してフルボ酸を添加したもので、土壌の透水性、保水性の改善を、木質チップ炭には土壌微生物のすみかの提供などを期待しています。

使用資材(金田正弘氏撮影 2021.11.20)

 土壌改良の内容は次のとおり。
(1)ミニアースオーガ(0.2バックホウ装着タイプ)による掘削した穴に割竹縦穴式土壌改良法(44箇所)及び縦穴式土壌改良法(79箇所)で、上記充填剤を投入
(2)穴あけ器でエアレーション(140箇所程度)し、その穴に、固形肥料を投入し、かつ、上記充填剤投入
(3)縦穴式土壌改良法を実施した箇所を重点に、フジミン500倍希釈液を散布
(4)高度化成肥料を微量全面散布

充填材攪拌状況(金田正弘氏撮影 2021.11.20)

 前回(昨年)の土壌改良との違いの一つは、縦穴を掘る機械はこれまで二人組の人力でのアースオーガーを使用していましたが、0.2バックホウ装着タイプのアースオーガーに変えて、縦穴を大量に行ったことです。
 前者はキックバックが時々あるため、高齢の作業員の評判は良くありませんでした。後者は、重機の移動、旋回には労働安全上、留意しなければならない点もありますが、キックバックの心配がなく、作業効率が高く、深さ1mの掘削も容易です。キャタピラータイプなので接地圧が小さく、桜の根への負担が小さいものと思われます。
 今回、割竹縦穴式土壌改良法を44箇所行いました。全国有数の桜の巨樹ではありますが、道内の桜で、1本の木に、この工法をこんなに行った事例はないのではないかと思われます。

0.2バックホウ装着タイプのアースオーガー(2021.11.20)
割竹挿入状況(金田正弘氏撮影 2021.11.20)
割竹縦穴への充填材の投入状況(金田正弘氏撮影 2021.11.20)

 次に、2点目は、1本桜なので、四方に根が伸びていることが考えられますが、南側に傾斜している斜面に生育しているので、南側を重点に4重に半円を描くように、縦穴を配置したことです。

4重に縦穴を配置(2021.11.20)

 3点目は、大規模な土壌改良となったため、その使用資材も大量となったことです。良いと思える資材は実績のあるものだけでなく、新製品でも積極的に惜しげもなく使用するという、金田樹木医のこうした姿勢に頭が下がります。樹勢回復でのパフォーマンスを得る一つの鍵と思えます。
 
 なお、割竹縦穴式土壌改良法で使用した竹は、松前町法幢寺の孟宗竹林について、当社と金田樹木医などがCSRで間伐した材で、同寺のご厚意により、マテリアル利用させていただいたものです。
 堆肥については、今回、地元浦河町産の堆肥が入手できなかったので、次回以降の課題と考えます。

R3完了状況(2021.11.20)

3 次回の樹勢回復措置に向けて
 今回は、いわゆる「寒肥え」の時期での土壌改良となりました。次回は、開花後の「お礼肥え」の時期にでも施肥や気根誘導を行うことを金田樹木医と打ち合わせしたところです。
 オバケ桜は、胴吹き、ヒコバエが見られませんが、気根が見られました。気根は、①オバケ桜自体が再生を図りたいとするサインであること、②内部腐朽への代償措置、③土壌改良により樹勢が良くなることによって枝葉が増え、風害を受けやすくなることへの対応、④1本桜としてこれまで強風に耐えてきたものの、今後、巨大化・強力化する台風等の襲来による強風へのフェイルセーフとして必要であること、の以上の理由から、気根誘導をしておく必要があるものと考えます。

4 おわりに
 オバケ桜は、大山桜(オオヤマザクラ)の巨樹ですが、1本桜特有の枝が四方に伸びており、どの角度から見ても樹形が美しい。
 本年(2021年)、コロナ禍にもかかわらず、浦河町の実数調査によると10,087人の観光客が来た、と伺いました。
 この数字は、この桜が「日本一」にとどまらず、その分布域を考えると「世界一美しい1本桜の大山桜」であることを物語っているのではないかと思っています。
 コロナ禍で閉塞観が漂う中、長年、風雪に耐えてきた孤高の桜から明日を生きるパワーを求めてきたのではないかと推測します。
 また、たとえ、コロナが終息しても、巨樹のパワースポットとして、多くの観光客を呼び込む力を持っていると考えます。
 樹木医である私としては、観光資源としての永続性の観点から、桜の根の領域での踏圧被害防止とオバケ桜の花とのふれあいの場の提供との両立策を町に提案しているところです。