北海道当別町開拓記念樹イチイへの「協働」保全作業
1 はじめに
平成30年11月15日(木)、北海道当別町(とうべつちょう)当別神社境内に隣接した公園内にある当別町開拓記念樹イチイの保全作業を実施しました。 平成30年9月5日の台風21号による強風で、隣接していたハルニレの木が「浴びせ倒し」状に倒れ、このイチイを直撃し、幹や枝を折損しました。
当別町では、腐朽が進んでいるものの、このイチイをできるだけ延命させたいということで、折損部に殺菌剤を塗布していました。しかしながら、本格的な保全作業の着手には諸般の事情から難しい、との話をお聞きしました。 そこで、当社のCSR活動及び当別町等との「協働」で行うことを提案し、ご了解いただいたことが経緯となっています。
2 イチイの由来
この開拓記念樹は、当別町と当別観光協会で解説標識を設置しています。以下、この標識から引用します。
「当別町史によると、明治4年(1871)、仙台支藩岩出山藩の踏査隊が当別移住に先立ち、この地に到達した折り、記念樹近くに露営したといわれています。また、最初の入植地聚富(※しっぷ)から当別までの5里7町(約20.4km)を伐り開いたときの終点でもあることから、伊達邦直(※だてくになお)の視察に合わせてこの樹の下に宴をはり、労をねぎらったといわれるゆかりの樹木でもあります。
昔、当別川の大洪水で多数の住民が流され亡くなったとき、このイチイに舟をつないだ女性だけが難を逃れたと伝えられています。」 ※は筆者が便宜上挿入した読み仮名で、原文にはありません。
また、北海道自然環境等保全条例第23条に基づき、北海道知事が昭和48年3月30日に指定した「北海道記念保護樹木」でもあり、指定当時の推定樹齢は350年以上とのことです。
3 イチイの現況
「北海道の巨樹・名木」(北海道林務部監修、(社)北海道国土緑化推進委員会・平成5年発行)によれば、枝には多くの葉をつけたイチイの木で、樹高11mとあり、作業当日に測定したところ、5.28mと半減しています。今回の風倒で樹高の上半分を失い、同時に多くの葉をつけた枝も失ったことになります。また、幹の断面積の半分以上を腐朽部分が占める状態となるほど腐朽が進んでいますが、上部を失い重心が下がったことで、倒木のおそれは少ないものと判断しています。
なお、「開拓記念樹」であることから、遺伝子保全のため、同じクローンで後継樹の育成についても当別町で検討いただくこととしています。
4 倒木の危険性
倒木したハルニレの切株は、写真 のとおりです。内部腐朽が断面積の半分以上になると倒木の危険が増しますが、この写真はそれを裏付けるものとなっています。台風などの強い風で倒木が発生しますが、内部腐朽の進んだ樹木は要注意です。気象災害が激甚化であることから、今後、樹木医の出番が増えてくるのではないでしょうか。
5 保全作業
当日の保全作業は、指導林家関口修氏((有)関口緑化代表取締役)、地元当別町から住民環境部長大畑裕貴氏、環境生活課長岸本昌博氏、環境対策係員の3名、当社からは金井茂理事、木戸口和裕樹木医の2名の計6名による「協働」で行いました。
作業内容は、①折損でささくれた部分、腐朽し分離した部分の除去、②折損での発生した新たな傷口への殺菌剤の塗布、③残った葉のついた枝の雪による折損防止のための雪吊り・枝の補強、④施肥・エアレーション、です。
奈井江神社の副総代として、注連縄づくりにも精通している関口修指導林家による雪吊りは見事なもので、ここに日本の美や芸術性を感じました。 なお、当初、施工を考えていた幹への雨水侵入防止は、幹の心材腐朽が進んでいることと、幹上部を雨の侵入から守るために塞ぐよりも、来年以降の幹上部での胴吹き(幹や枝の途中に吹く芽)の成長阻害の恐れがあるため、デメリットが多いと判断し、行いませんでした。
6 施肥等
来年以降の樹勢回復、すなわち、胴吹きを促すために、堆肥や遅効性固形肥料を施し、そこへ、フルボ酸の植物活性剤「フジミン」(販売元:サンスイ・ナビコ㈱)の散布を行いました。 堆肥は、岩見沢市の指導林家玉田孝氏(玉田産業㈱取締役)が牛糞をベースに2年以上寝かした完熟堆肥です。
また、フルボ酸はキレート効果による養分の運び屋の役割をします。 施肥の範囲は、大正時代からあったとされるコンクリート製柵(2.8m×2.8m)内で行いました。この柵は、隣のハルニレからの根を拒む役割は果たしたものの、イチイ自体の根の展開も阻んでおり、マイナスの面が大きいと思われます。少なくとも100年ぐらい、イチイと柵はお付き合いをしてきていることから、柵の撤去は行っていません。
7 来年にむけて
まずは、この冬、積雪状況を観察し、葉のある枝を折損しないよう、必要であれば雪落とし、雪解け後は雪吊り材の解体作業をすることを、当別町役場の方々と打合せしています。 経過を見ながら、イチイの延命のためのより良い措置を検討していきたいと思っています。