和寒町「ふれあいのもり」のシラカバ等の樹勢回復措置
令和2年10月20日、和寒町の「ふれあいのもり」西側のシラカバ、イタヤカエデなどの樹木が生えている一帯に、樹勢回復措置を行いました。
参加者は、町からの要請を受けた和光クリーン㈱代表取締役藤村光司氏のほか同社社員8名と当社の樹木医木戸口和裕の10名です。また、樹勢回復措置の見学に来ていた「砂川レイクサイドの会」代表津田博吉氏や和寒森林組合の参事中村秀壽氏にも午前中お手伝いいただきました。
「ふれあいのもり」は、各種イベントの開催拠点として、平成26年にオープンし、和寒町の4大まつり(夜桜まつり、どんとこい!わっさむ夏まつり、パンプキンフェスティバル、極寒フェスティバル)に利用されています。平成27年には、北海道植樹祭の式典会場として利用されました。野外ステージと焼き肉を楽しめる2棟の四阿(あずまや)があり、この四阿を囲むようにシラカバなどの「もり」が囲んでいます。
切っ掛けは、本年9月10日に、町の緑化に情熱のある和光クリーン㈱の藤村光司氏が樹木医木戸口和裕に現地案内とともに相談いただいた案件の一つが、この「ふれあいの森」でした。
今回の樹勢回復措置の対象地は、「ふれあいのもり」造成時に、もともと生えていたシラカバなどの樹木の根の多くが損傷したことが疑われます。そして、その根の復活を妨げたのが薄い表土です。もともとあった森林土壌のほとんどが造成時にこの森から搬出され、現在の表土は、樹木の下への芝生造成によるものではないでしょうか。そこへ、造成後5年間のイベント参加者の立ち入りによる踏圧によって、ますます根が傷み、梢の部分の枯れや少ない葉量といった樹勢の衰えが顕著になったものと推測しています。
現在では、日当たりも良く、疎林状態で開放感のある林になっています。造成前の森林状態は、日光争奪戦という競争社会の中で、上へ上へと光を求め、下枝を発達させることができなかった樹木が、造成後、急激に疎林状態になっても枝の発達を促すほど、根などに蓄えた力はなかったものと考えます。
また、表土の薄さは、保水力のなさを示しており、水位は極めて浅く、干害に弱いということになります。このことも少なからず現在の樹勢に影響しているものと考えます。
このような考え方から、現在生えている樹木の樹勢回復及び延命を図るため、施肥と土壌改良を行うことを提案しました。かつてあったと思われる森林土壌の復活を目指すものです。施肥と土壌改良により、ミミズや微生物が土づくりを行い、柔らかく厚みのある土壌の形成を促すものです。このことにより、樹木の細根から、水、養分、酸素が十分供給され、葉量の増加などを期待するものです。
措置の内容は次のとおり。
①深さ0.6mから0.8mの縦穴を油圧式のアースオーガーで掘削し、樹冠の縁を意識して環状に、それぞれ十数か所の縦穴式土壌改良法を行いました。
②北海道砂川産堆肥、ピートモス、鹿沼土、木質チップ炭に、稚内珪藻土(厳密には稚内珪藻頁岩粉砕物)にフルボ酸の植物活性剤フジミン®(以下「フジミン」といいます。)500倍希釈液を含侵させたものを投入し、それらを混合撹拌して、混合土として縦穴に締固めすることなく充填するとともに、全体的にも散布しました。締固めをしないのは、根への酸素の供給を意識しています。
③穴あけ器による深さ20cm程度のエアレーションを根の範囲に格子状に多数行った。
④穴あけ器でできた穴には遅効性固形肥料(まるやま1号)1個投入し、その上に混合土を投入しました。
⑤フジミン500倍希釈液を樹冠の縁付近に環状に重点的に散布するとともに、根の範囲全体にも散布しました。
油圧式のアースオーガーでの掘削は、作業者が時に3人がかりで行うほど、固い地盤が作業効率を下げていました。反省点としては、油圧式のアースオーガーでは、「もり」の中に発動発電機を積んだ軽トラックを入れざるを得なかったことで、これでは表層付近の樹木の根を傷めることや「もり」内の土壌を固くしてしまうことです。今後は、パワーは少ないが、エンジン式のアースオーガーを採用して、車両の乗り込みを排除する対応が必要であると思われます。
もともと人が立ち入ることを前提としていた「もり」に、樹勢回復期間中といった一定程度の期間「立ち入り制限」を行うかは、今後の検討課題であると考えます。
これまで、木戸口は、桜、イチイに樹勢回復に携わりましたが、シラカバ、イタヤカエデなどに対し、このように大々的に土壌改良を行ったことはありません。
名木扱いされていない既存の樹木を伐採して苗木を植えれば良いという考え方もあるとは思いますが、それでは、既存の樹木が持っている大きさという時間的価値をすぐに埋めることはできません。
また、苗木植栽にはエゾシカの食害対策という問題もつきまといます。
新型コロナウイルス感染症の関係でイベントが中止となったことも一因ではないかとは思いますが、今回の公園の樹木の保全を英断された関係者に敬意を表します。
その英断に報いるためにも、まずは、今回の措置の効果を含め、この「もり」を注視してまいりたいと考えています。