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胆振東部地震に起因した崩壊地での緑化試験

2019年10月07日

 当社では、令和元年9月4日付けで、(地独)北海道立総合研究機構様(担当は森林研究本部林業試験場)と「大規模崩壊地森林造成実証試験その2委託業務」の契約を締結し、9月17日(火)から9月20日(金)に、当該業務の現地での施工を行い、9月25日付けで完了をしています。
 
 当該業務の内容は、航空緑化工としてヘリコプタ―で空中散布するスラリー(液体に固体を混ぜ合わせたもの)を、小面積で、かつ、点在する試験地に、人肩運搬し、人力で散布して、3箇所の緑化試験地(高丘8、高丘9、幌内)を設定するものです。

 なお、航空緑化工とは、通常の法面緑化工の種子散布工や客土吹付工で使用される材料を、ヘリコプターから、薄く散布するもの、と理解いただいて良いものです。
 航空緑化工は、1970年代から足尾銅山の復旧工事に活用され、北海道では1977年の有珠山噴火後、その後は1991年の雲仙普賢岳の火砕流災害後に活用され、北海道の有珠山では泥流の発生源を抑えるということに多大な貢献をしました。

航空緑化工・スラリーの散布のイメージ
航空緑化工・スラリーの散布のイメージ

 当該業務では、2種類のスラリーを用いており、一つは「ECOバインドAir工法」、もう一つは「マルチプロテクションAir工法」で、前者は当社のグループ会社である国土防災技術㈱が開発した工法で、後者は国土防災技術㈱と朝日航洋㈱が共同で開発した工法です。
 また、どちらにも地球環境大賞2019農林水産大臣賞受賞のフルボ酸の植物活性剤「フジミン」(販売元:サンスイ・ナビコ㈱)を配合しています。
 「ECOバインドAir工法」の「ECOバインド」は、もともと建築資材で土間や土壁に利用されていたもので、カルシウム、シリカやマグネシウムを主体とするミネラル系固化材で、当社では、仮設の安全対策工としての使用も推奨しているものです。この固化材は、高い耐浸食性を発揮するとともに、植物の生育に障害を与えにくく、北海道のような積雪寒冷地向きです。
 航空緑化工の場合、施工適期は種子が発芽する春ですが、今回は様々な都合により秋発注であるため、配合したケンタッキーブルーグラスなどのような芝類の種子の発芽生育は期待できず、本年(令和元年)中の根の発達もあまり見込めません。厚真町のような少雪寒冷地で無事に冬を越せるか心配されます。

ECOバインドAir工法の配合中のスラリー(高丘9・2019.09.18 撮影)
ECOバインドAir工法のスラリー人力散布状況(高丘9・2019.09.18 撮影)

 次に、「マルチプロテクションAir工法」は、自然公園等の無播種・少量播種に対応した工法で、当該業務では無播種とし、複数(マルチ)の有機質繊維(ワラ、木材ファイバー等)で被覆することで耐浸食性を向上させていますが、①周辺から飛散して来る種子の待ち受けであるため、確実な緑化の点で「ECOバインドAir工法」よりも劣ること、②待ち受けた種子の根が発達しない前に、冬季を迎えるため、薄い膜である待ち受け材料が凍結融解に対抗できない可能性が高いことら、寒冷地での適用は難しいかもしれません。
 しかしながら、ECOバインドAir工法、マルチプロテクションAir工法ともに、様々な条件下での適用性を把握するため、試験として実施しているものです。

マルチプロテクションAir工法のスラリー配合状況(高丘9・2019.09.18 撮影)
マルチプロテクションAir工法のスラリー配合状況(高丘9・2019.09.18 撮影)
高丘9 施工直後のEBA(左)、MPA(右)  2019.09.24
高丘9 施工直後のEBA(左)、MPA(右)  2019.09.24

 当該業務を受託したのは、当社が航空緑化工の実施を関係機関に提案したことに起因していますが、そもそも提案した理由は次のとおりです。
①経済的な緑化が可能であること。
 胆振東部地震での新たに生じた崩壊地4,300ヘクタールの早期復旧には、コストパフォーマンス上、航空緑化工が客土吹付工や植生マット工よりも安価です。比較的平坦な崩壊斜面でも降雨、降雪、凍結融解により、雨裂がガリーへと発達し、土留工、水路工、暗渠工などが必要となってきます。航空緑化工は、そうなる前に、芝などの根の力により表面浸食を抑えて、森林化しやすい環境へ誘導するものです。
 谷地形の土砂移動の激しい所には不向きですが、土留工、柵工、筋工等と併用すれば、緑化の歩留まりは確実に上がります。

大規模な崩壊地(厚真町日高幌内川上空・2019.02.26 撮影)

②大規模な面積の崩壊地を極めて早期に緑化することができること。
 現場近くにヘリポートがあるようなサイクルタイムの短く済むところであれば、1日3ヘクタール程度の緑化(スラリーの散布)も可能な工法です。
③奥地や林道が未復旧な箇所など、資材の搬入困難地や作業員の通勤困難地に向いていること。
 ヘリコプターを使用するので、人家裏の崩壊地には不向きですが、陸路に障害があるところや奥地のような遠隔地に向いています。

 当該試験地は、今後、発注した(地独)北海道立総合研究機構様でモニタリングしていくと聞いています。通常の航空緑化工のように、崩壊地を全体的に施工するのとは違って、当該業務では、崩壊地の一部に絆創膏(ばんそうこう)を張ったような施工なので、斜面上部からの土砂の供給や上部からのガリーの発達など、厳しい環境下であることに留意する必要があります。
 受託者として私どももこの試験地を注視し、北海道に適合した技術の向上に努めたいと考えています。