胆振東部地震に起因した崩壊地での緑化試験による緑化状況
1 はじめに
当社では、地独)北海道立総合研究機構様(担当は森林研究本部林業試験場)から「大規模崩壊地森林造成実証試験その2委託業務」を受注し、令和元年9月17日(火)から9月20日(金)まで、当該業務の現地での緑化工の施工を行っています。
本年(令和2年)6月4日に、緑化状況の現地確認を行いましたので、その結果を報告します。
2 緑化の概要
当該業務の内容は、通常、航空緑化工としてヘリコプタ―で空中散布するスラリー(液体に固体を混ぜ合わせたもの)を、小面積で、かつ、点在する試験地に、人肩運搬し、人力で散布して、3箇所の緑化試験地(高丘8、高丘9、幌内)を設定するもので、2種類のスラリーを用いて行いました。
2種類のスラリーの内訳は、一つは「ECOバインドAir工法」(以下「EBA」といいます。)、もう一つは「マルチプロテクションAir工法」(以下「MPA」といいます。)です。 前者は当社のグループ会社である国土防災技術㈱が開発した工法で、後者は国土防災技術㈱と朝日航洋㈱が共同で開発した工法です。 また、どちらにも地球環境大賞2019農林水産大臣賞受賞のフルボ酸の植物活性剤「フジミン®」(販売元:サンスイ・ナビコ㈱)を配合しています。
EBAの「ECOバインド」は、もともと建築資材で土間や土壁に利用されていたもので、カルシウム、シリカやマグネシウムを主体とするミネラル系固化材で、当社では、仮設の安全対策工としての使用も推奨しているものです。この固化材は、高い耐浸食性を発揮するとともに、植物の生育に障害を与えにくく、北海道のような積雪寒冷地向きです。 航空緑化工の場合、施工適期は種子が発芽する春ですが、今回は様々な都合により秋発注であるため、配合したケンタッキーブルーグラスなどのような芝類の種子の発芽生育は期待できないのではないかと懸念していました。
一方、MPAは、自然公園等の無播種・少量播種に対応した工法で、当該業務では無播種とし、複数(マルチ)の有機質繊維(ワラ、木材ファイバー等)で被覆することで耐浸食性を向上させていますが、①周辺から飛散して来る種子の待ち受けであるため、確実な緑化の点でEBAよりも劣ること、②待ち受けた種子の根が発達しない前に、冬季を迎えるため、薄い膜である待ち受け材料が凍結融解に対抗できない可能性が高い、と判断していました。
なお、3箇所の試験地で鹿柵内に、EBA、MPA別に1.5×20.0mの区画が2区画設定され、さらに、幌内では、鹿柵が無いところにEBAのみ1区画が設定されています。
3 現地確認結果
(1)EBAは、高丘8(鹿柵内)、高丘9(鹿柵内)、幌内(鹿柵内)、幌内(鹿柵外)の4試験区は、ケンタッキーブルーグラスなどのような芝類の発芽、生育は良好でした。昨年秋期の短い間であったのにも関わらず、根の発達により、冬期間の凍結融解にも耐え、融雪時の表面浸食防止に機能を発揮していました。
(2)幌内(鹿柵外)EBAでは、上部からの崩土に埋まりつつある状態でした。芝類は、鹿の食害が見られましたが、葉先だけで根こそぎの損傷ではありませんでした。エゾシカによる多少の食害にも対応できることを裏付けていると考えます。
(3)高丘8(鹿柵内)、高丘9(鹿柵内)は、鹿柵が一部破損しており、侵入した形跡が見られ、幌内(鹿柵外)と同様に、芝類の食害が見られましたが、葉先だけで根こそぎではありませんでした。
(4)MPAは、高丘8(鹿柵内)、高丘9(鹿柵内)、幌内(鹿柵内)の3試験区とも6割から7割程度、施工地からの流出が見られ、下方へのたまりが見られました。
(5)MPAの施工地内に残っているものや下方にたまっているところは、付近からの種子の捕捉はわずかであり、待ち受け工法の不安定さを裏付けました。積雪寒冷地の凍結融解には、生分解性繊維などの材料の追加などして、スラリーによって被膜を厚くしても対抗が難しく、芝類の根の緊縛力が有効であることを裏付けた結果となりました。
(6)MPAの施工地内に残っているものは、今後、植物の種子の侵入がなければ、大雨により流失してしまう可能性が高いと思われました。MPAは、外来牧草ではなく、周辺の種子を導入するという生物多様性の保全上、良い工法ではありますが、積雪寒冷地の凍結融解にも強い技術の開発が必要であると考えます。
(7)今回の現地確認結果による2工法の比較では、EBAが早期緑化に貢献できることを示唆したものとなりました。
4 終わりに
令和2年7月豪雨災害、昨年の台風19号災害、平成30年7月豪雨災害(西日本豪雨災害)と想定を超える大雨で堤防が決壊するなどして洪水災害が頻発する時代となっています。令和2年7月豪雨災害では、球磨川から大量の土砂が八代海に流れ込んでいます。
胆振東部地震では、4,300ヘクタールに及ぶ崩壊地が出現しています。近年の豪雨災害を踏まえ、これら崩壊地では、森林の有する水土保全機能が発揮できるよう、できるだけ早期に緑化する必要があると考えます。
局所保全は被災地では民生の安定上、たいへん重要ではありますが、流域保全の観点も大面積の緑化も同時に進めていく必要があるのではないかと考えています。航空緑化は、コストパフォーマンスの観点から、早期緑化に欠かせない工法であることを、今回の試験地の現地確認結果では、示唆していると考えます。